なぜ、人物画は難しいのか?
なぜならば、形が複雑で描く場所が多い上に、似ているか、似ていないかの判断まで加わるからです。
例えば、りんごを描いてみた場合、「リンゴっぽく」かけていれば多少形にズレがあっても「うまいね!」となります。
自然物なので、ひとつひとつの<個体差>として受け入れられるからです。
同じく、風景画も、完璧に同じでなくても、雰囲気が伝わるとか、空間が綺麗に出せているなど、伝えたい何かが「それらしく」描けていれば良い場合もあります。(その時の目的によっても観る基準が変わりますが。)
しかし、人物の場合、日頃から自分も含め「顔」というものをたくさん目にしているので、特徴や違和感をシビアに見てしまう癖があります。
人物画 = うまくかけている + 似ているかどうか
ですから、上手くかけているにも関わらず、「何か違うなぁ〜」とか「なんか変〜!?」という風に感じてしまい、人物画は難しい。上手く描けない。苦手。という方が多いんですね。
人物画を描くための3つのポイントとは?
- 形をとる。(輪郭、髪型)
- 目鼻口などパーツの配置バランス
- 全体の立体感。凹凸を把握し描く。
「林先生の初耳学!」の番組で、お笑い芸人 納言の薄幸さんに人物画を描いていただきましたが、初日の絵がこちらです。
しかし、実際に知識の無い中で人の絵を描いたら、多くの人はこのような絵になるのではないでしょうか。
なぜ、このような絵になってしまうのかというと、原因は描くべきポイントを理解していないからです。
どこを描けば良いのかが分かれば、観察すべきポイントも定まってきます。
すると、よほどのことが無い限り、構造が崩れることは無いのです。
逆に言うと、観るべきポイントを見ていない。とも言えます。
しっかりモチーフの観るべきところをみて、描くことで、人物画は描けるようになるのです。
短時間右脳トレーニングで特徴を見極める
短時間右脳トレーニングは、やってみましたか?
このトレーニングは、1日に数枚でも構いませんので、続けていただきたい内容です。
人物用のモチーフ集がありますので、短時間で切り替わる写真画像を見ながら、どんどん描く経験を積んで行きましょう。
このトレーニングで、とにかく、いろいろな人を描いてみましょう!
すると、個々の違いに気がつくと思います。
そして、描きながらよく観察をしてください。
世界には、100億人以上の人がいるにもかかわらず、まったく同じ顔という方は、ほぼいないのです。
目の離れ具合、鼻の高さ、口の形、眉毛の形・・・などなど、一人一人の違いをよく観察してみましょう。
紙や鉛筆がない場所でも、その人の特徴を観察することはできます。
「鼻が大きい」とか「眼が細い」というように言葉にして書き出してみるのも良いでしょう。
更に、短時間トレーニングでは、顔の輪郭だけを描く、目だけを描く、鼻だけを描く・・・、と言うように、パーツごとに描いてみるのも、とても良い練習になります。
いろいろな人の顔をたくさん描くことで、その人らしい特徴を見極めることができるようになってきます。
常に中心線 [正中線]を意識しましょう!
顔は、みる位置によって注意する観察ポイントが異なります。
例えば、正面から見たときと、右を向いているとき、左を向いているとき、更に、少しだけ右、少しだけ左、または、少し上を向き、かつ左を向いているなど、様々な角度が加わる場合がありますが、共通してするべきことは、顔の真ん中を通る「中心線(正中線)」を確認することです。
中心線に対して、左右の顔の面積比の見え方が異なりますので、顔の向きがわかるようになります。
ここに、両目の位置を記す横線も描き入れていきます。
頭部が球体なので、正面以外の角度から描く場合には、左右の目の見えかたの違いを確認する必要があります。
初心者の方は、短時間トレーニングをする際に、まずはこの「中心線(正中線)」と「顔の輪郭」の位置を必ず確認するようにしてください。それだけでも、顔のバランスが取りやすくなりますよ。
顔のパーツの配置ポイントを知っておきましょう
頭部に顔のパーツを配置していきますが、パーツを配置する際の重要な6つのポイントをお伝えしていきます。
下の図は、人間の顔の平均的な配置バランスです。
それぞれのパーツを配置する際にバランスをみるのにお役立てください。
- 青の線は、額(ひたい)から顎(あご)までを3当分する線です。
- 目は頭頂部から顎(あご)までの間の真ん中くらいになります。(3等分した青線の真ん中部分の、半分より少し上と考えても良いでしょう)
- 上から2つ目の青線くらいに眉毛がくる
- 上から3つ目の青線くらいに鼻の下の部分がくる
- 顎(あご)と鼻下の青線を2等分したところに、下唇がくる
- パーツを描き入れる際には、耳の位置も同時に確認する。
※顎は、下から見上げた際には裏が見えます。
納言の薄幸さんにも、この配置バランスをしっかりと理解していただきました。
それまでは、大凡のところに、パーツをそれっぽく配置していましたが、この基本がわかってからは、顔の骨格がかなり整って来ました。
トレーニングを取り入れると、人に会うときにも「常に顔の中心線を見てしまう・・・」と話していました。
顔パーツごとに描いて見ましょう!
スケッチやクロッキーであれば、簡単な線で表現するのもOKなのですが、ここではデッサンの描き方を中心にお伝えします。
スケッチやクロッキーでは、限られた時間の中で、どの部分を省略し、どの部分を残せば、「似ている」と、なるのかを描きながら線を探ってみてください。
ではひとつひとつみて行きます。
眼の描き方
もう一歩踏み込んで観ていきましょう。
まず、アタリで大凡の形を決めたら、次のステップとして徐々に描き込みに入ります。
「眼の位置がどこにあるのか?」「どれくらいの大きさなのか?」左右の眼の違いを確認しておくと良いでしょう。
また観察する際のポイントとしては、左右の歪みを積極的に見つけましょう。
この違いこそ描いていくことで、「その人らしさ」や「人間らしさ」が出せます。
完璧な左右対称系に描いてしまうと、ロボットのような冷たい印象になってしまいます。
そういう意味で、端正な顔立ちの人の方が描くのが難しいとも言えるのです。
①正面からの眼の描き方
②いろいろな角度の眼
それぞれの角度から描くことで、その位置から描いているという特徴を伝えられるように理解しておきましょう。
少し角度が変わるだけで正面で見たときとは違う部分が見えてきます。
鼻の描き方
鼻は顔の中心にあります。正面からみると、一番手前に突き出ている部分です。
どれくらい出っ張っているのかは、横から確認してみましょう。
①正面からみた鼻の描き方
ポイントは鼻の下の面を描くことなのですが、動画をみながら描き方を解説していきます。
②いろいろな角度の鼻
それぞれの角度から描くことで、その位置から描いているという特徴を伝えられるように理解しておきましょう。
口の描き方
口は表情をとても出しやすく、目ほど微妙ではなく直接的です。
口の両端を変えるだけでいろいろな表現ができます。
人によって唇の厚みや大きさが異なりますので、個々の違いを見つけ、描いていきましょう。
また、口も頭部の球体に沿って存在しています。
口を開けた際に見える歯の骨格をイメージしてもわかりやすいと思いますが、全体にゆるく「湾曲している」ということを理解しておくと、形をとりやすいと思います。
①正面からみた口の描き方
正面からみると、平面的に見えてしまうため、立体的に感じられるように形をしっかりと描き起こしていきましょう。コツとしては口の閉じている部分に向かって回り込みをしっかり描くことと、明暗の違いを丁寧に観察していくことです。
「明・中・暗」に加えて「反射光」もよく観察していきましょう。
②いろいろな角度の口
それぞれの角度から描くことで、その位置から描いているという特徴を伝えられるように理解しておきましょう。
林先生の目、鼻、口の描き方
髪の毛を描いて見ましょう
人物を描くときには、顔だけでなく髪の毛の形や固有色の違いにも注目して行きましょう。
固有色を描き分ける
髪の毛の色は個人差が大きいです。
金髪の人、白髪の人、茶色い人、黒髪の人・・・このように瞬時にその人の印象を示すものでもあります。髪の固有色があるかどうかでも、顔の見え方が変わってきますので、特にデッサンをする場合には気にかけてください。
モノクロの鉛筆画で描く場合、黒髪であれば、かなり濃い(黒い・暗い)色がつきます。
スケッチなど、短時間で線だけで表す場合と、デッサンとしてしっかり色をつける場合とで、表現の仕方は変わってくるかも知れませんが、色をつけるかどうかで、これくらいの違いがあるということを認識しておいてください。
消せないかも知れない。という恐怖心なのかも知れませんが、どの鉛筆の種類で、どれくらいの筆圧をかけて描けば良いのか。その人にしか分からないものです。
グラデーションスケールを作っておくと、どれくらいの濃さが必要なのかを見極めるのに役立ちますし、自分の筆圧の加減も理解することができると思います。
グラデーションスケールについてはこちらのブログもご覧ください。
それから、髪の毛の生え際もよく観察して描くようにしましょう。
特に女性は産毛が生えていたりするので、キワを少し指でこするなど、ぼかしておき、その上から髪の毛の線を描き入れると雰囲気が出ます。
髪の毛を描くときにも、柔らかい鉛筆を寝かせて描く場合もありますし、硬い鉛筆を立てて描く場合もあります。その時々で、どんな表現方法が会うかを考えながら選んでいってください♪
線のバリエーションを増やし、「ここにはこんな線を使ったらいいな」とイメージに合った線をチョイスできるようになると良いですね。
頭部の大きな明暗を探してみましょう
どんなモチーフにも同じことが言えるのですが、光の方向は必ず確認しましょう。
こちらの女性を例にすると、左側から光が当たっています。よって頭部向かって右側にいくにつれ、徐々に暗くなっています。この大きな頭部全体の「明・中・暗」の移り変わりをうまく捉えることができると、立体的に見せることができます。
このモデルさんの場合、左前方から顔の正面に向けて光が当たっています。(鼻筋・額・両頬周辺が明るくみえています)
髪の毛を確認すると、「明:中:暗」の3段階くらいに明かるさが移り変わっています。
この大まかな明暗の違いを、アタリから徐々に描き込む段階で描き分けていくと、頭部の立体感を感じられる作品になります。
また、頭部は球体なので回り込みも考えながら鉛筆を動かす方向にも意識を向けながら、色を乗せて行きましょう。サイドの部分は、横からみたらかなりの奥行きがあるので、その奥行きを感じられるように
描く必要があります。
奥に行くに従ってどのようにみえるのか、明暗の移り変わりなど、変化を感じながら描きましょう。
細かい明暗をみてみましょう
①髪の毛は束で描く
髪の毛は、一本一本を描くよりも、小さな固まりごとに分けて考え、明暗の強弱をつけながら描くほうが自然な感じに見えます。
髪の毛一本一本を線で描くのではなく、「面」でみていくようにしましょう。
【紫線】・・・影に見えてる部分
【矢印】・・・一本一本が比較的目立つ部分
【黄緑】・・・生え際。産毛があるところ
実際には、一本一本の毛がはっきりみえている部分は、少ないのです。
例えば、【紫線】で示してところは、暗く見えているところです。
ここは、髪の毛の一本一本はそれほど見えて来ません。
逆に明るい部分では、髪の毛の状態がより細かくみえてきます。
ですから、暗い部分はしっかりと暗くし、明るい部分を中心に描き込み描写をしていくと自然な感じにみえてきます。
更に、【赤矢印】で記した部分は、髪の毛の一本一本までが見て取れる部分です。ここも一本一本を同じように描くような気持ちで丁寧に描き入れて行きましょう。
また【緑線】で囲んだ生え際の部分も、薄く柔らかい髪の毛なので、HやFといった硬めの鉛筆を使い、先端の細い芯の部分で描き入れてみてください。
② 額にできる髪の毛の陰影を描く
「髪の毛と額の間にできた影」についても注目していきます。
下の図のように、前髪が額の上に重なっている場合、影を描き入れてみてください。
右側は前髪の影を額に描き入れてあるのですが、気がつきましたか?
このように、髪の毛の影になっているところや、薄くて細い産毛の部分などをよく観察して描くことで、より自然な仕上がりになります。
因みにこれは、納言のみゆきさんが描いた林先生の顔です。
髪の毛の影と同時に、白眼の見え方についての解説をしたところです。
ほんの少しの細かいフォローで完成度が変わってくるので、テクニックとして覚えておいてください。
ただし、テクニックを使う際には必ずモチーフを観察し、「ちゃんとそうなっている」ということを確認してから実行してくださいね^^
また、「木を見て森を見ず」というように、細部にだけ拘りすぎて、全体の「明・中・暗」を見失わないように、画面から少し離れて確認する時間も持つようにしましょう。
受講生サイトでは、次のステップ、パーツごとの繋がりを確認しながら全体を描いていきます!